今年度の本研究は、以下の4点に大別できる。 1) シリコン半導体飛跡検出器(SCT)のモニタリングシステムを拡充した。モニターしデータベースに記録する変数をこれまで以上に増やし、かつその流れの自動化を図った。これにより、並行して開発を進めていたデータベースbrowserを使い、迅速かつより複雑な解析を行えるようになり、検出器の振る舞いをより詳細にモニターすることで、データクオリティの格段の向上を望めるようになった。 2) SCTのノイズに関する詳細な解析を行った。温度に対する依存性、および、物理ランと較正を目的としたランでの違い等を調べ、その結果をコラボレーション内部の論文として纏めた。また、2009年11月のLHCの運転開始後は、トリガーによるヒット占有率の違い、センサーのバイアス電圧に対するノイズ依存性などを調査し、検出器が設計通りに動作していることを確認した。 3) ベクトルボソンの融合により生成されたヒッグスボソンがb反bクォーク対に崩壊する事象を用いたヒッグス探索感度を最新のシミュレーションを用いて調査した。その結果、過去の簡易シミュレーションを用いた先行研究の結果を覆し、設計通りのルミノシティで3年程度データ収集しても発見するのが容易ではないことがわかった。 4) SOIに関しては、計数型検出器のアナログ特性のテストを主に行った。電流-電圧特性を詳細に測定し、温度依存性、その他の外部環境による違いを考察した。また、ある特定のプロトタイプが通常よりも大きな暗電流を持つことをつきとめ、その原田解明に取り組んだ。結果として、その原因の特定には至らなかったが、種々のプロトタイプを系統的にテストすることでセンサーに対する理解が深まった。
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