本年度は、大きく分けて(1)InAlAs/InGaAs/InAlAs量子井戸を利用した長方形ループにおけるスピン干渉効果の検証、(2)AlSb/InAs/AlSb量子井戸におけるスピン分離効果の定量的検証、(3)InAs/AlSb/InAs/AlSb/InAs/AlSb/InAs3重障壁共鳴トンネル構造のI-V特性の評価、及びシミュレーション、の3つのテーマで研究を行った。(1)のテーマでは、半導体微細加工技術により、InGaAs量子井戸を一辺が1.8μm程度の長方形ループを配列上に並べた構造を作り、電子輸送特性を極低温(50mK)において測定した。極低温の環境においては、電子の波(波動関数)としての性質が顕著に現れ、波動関数のスピン部分の干渉が電子輸送特性に反映される。その結果、結晶場に起因するスピン分離効果と界面電場に起因するスピン分離効果を分離して評価することが可能となった。(2)のテーマでは、AlSb/1nAs/AlSb量子井戸におけるスピン分離効果を零磁場と高磁場(5.5T)で測定し、そのデータを基に全磁場におけるスピン分離効果をシミュレーションにより見積もった。(3)のテーマは、代表者が2002年に提案したスピンフィルタデバイスの動作検証の準備的な実験であり、用いた試料は零次近似的にはスピン分離効果を示さないはずであるが、得られた実験結果ではI-V特性の電流ピークが分離しており、高次の効果としてスピン分離効果が発現していることが考えられた。
|