いわゆる温暖化後の地球によく似た過去の時代(アナログ)を統計的に捜し求めるには、日本列島周辺の暖温帯~亜熱帯の表層花粉整備が必要である。この研究計画にかかる三年目の調査として、九州南部~沖縄周辺の野外調査を実施し、計75点の表層花粉試料を採取、室内分析しデータ化した。なおこの地域は昨年度に一度調査しているが、その試料採取基準に問題があった(花粉群組成に堆積過程による歪曲が発生していた)ことがわかったため、データ品質を維持するために今年度あらためて現地調査と試料採取をやり直したものである。この他、現行の日本の表層データセットの品質をあげるために長野県、青森県、大阪府、和歌山県などへ赴いて表層花粉試料を採取し、同じく持ち帰って分析した。 また四川大地震の発生にともない昨年度から調査順延(予算繰越)した中国四川省~雲南省の表層花粉調査を実施した。具体的には交付申請書に記した通り、昆明植物研究所と協働して計4人のパーティを組み、ワゴン車をチャーターしてチベット自治区に隣接する四川省~雲南省西部山岳地帯を踏査した。得られた試料は、日本列島表層データと同様の温度域(暖温帯~高山帯)をカバーするパラレルデータとして学術的に貴重である。 この他に、関東平野南部(千葉市中央区都町)においてボーリング調査を行い、炭素14年代測定ならびに堆積物試料の花粉分析をおこなった。この調査を新しく追加した理由は、南関東地方(東京~神奈川~千葉~埼玉)は日本列島の暖温帯の一部を構成する点で重要だが、人口密度が高く、自然林の残存はきわめて限定されているため、良質の表層花粉データを得るには地表から数メートル掘りこんだ先史時代の試料が必要になるためである。結果的に、都町の地下2~4mにおいて2~3千年前(弥生時代)の良好な自然林時代の堆積物を得ることができたるなおこの地域で稲作が始まるのは古墳時代以降である。
|