花粉ベースのモダンアナログ法(MAT)は第四紀後期の古気温を定量復元することにより、IPCCなど今後数十年後の気温上昇予測に対する規制値を提供できる。しかし復元結果が年平均16℃以上で振り切れるため、現在より2℃以上高い温度域を復元できない欠点があった。そこで本計画では、現在の年平均気温が16℃を超える日本列島の暖温帯・亜熱帯に対して表層花粉整備をおこない、データ空白を埋めることにより上記の振り切れ問題を解消することを目指した。 具体的には、紀伊半島南端から南四国~南九州~種子島~奄美大島~沖縄~八丈島~青ヶ島にいたる暖地帯(年平均気温16~23℃)を調査し、得られた計200点以上の表層花粉試料を持ち帰って室内分析することにより、既存のモダンアナログ資料の空白を埋める作業を繰り返した。その結果、関東から近畿にいたる日本列島主要部(年平均15℃前後)における5℃から最大7℃までの温度上昇曲線が、振り切れることなくMAT描画できる環境が整えられた。 花粉学的には、南四国より南方に位置する暖温帯下部~亜熱帯のほぼ全てにおいて、圧倒的なシイ属(Castanopsis)の優占が確認された。カシ類(Cyclobalanopsis)の多産は年平均16℃未満の暖温帯上部に限定されており、日本列島における照葉樹種の表層花粉分布が整合的に示された。さらに既存の表層花粉データの枠内での整備効果を確認する試行作業もおこなわれた(過去78万年花粉データに対するMAT法の試行)。以上の成果は2本の英語原稿 (Okuda et al;Tarasov et al.)にまとめられ、NCommおよびEarth Sci Revへ投稿された。 さらに計画調書作成時点に未構想だったテーマとして、日本列島海洋底の表層花粉整備を新たに企画し、実施した。具体的にはIMAGESなどにより掘削され、日本各地のコア倉庫に保存されている海洋掘削コア70本あまりから最上部の泥試料を収集し、陸上表層と同じ手法で分析し、データセット化する作業を繰り返した。これにより日本列島周辺海洋の表層花粉分布が、陸上と同様の方法論で解明された。 その他、著しい都市化を経ている東京湾岸において表層花粉群を得るための手段として、歴史時代のボーリング試料を花粉分析して表層試料の代替とする試みをおこなった。
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