研究概要 |
海洋プレートはマントル対流の冷たい下降流として数百万年かけてマントル遷移層へ沈み込んでいる。本研究ではプレートを構成する海洋地殻玄武岩とプレート本体のかんらん岩について、相転移カイネティクスを考慮した深さ約800kmまでの「非平衡ミネラロジー」を明らかにする。特に、地球内部に存在する微量な水がカイネティクスに与える影響を定量的に解明することが決定的に重要であり、温度と含水量をパラメーターとして非平衡ミネラロジーを構築する。平成19年度は主に以下のテーマを中心に高圧相転移カイネティクス研究を行った。 1)パイロキシンーガーネット相転移カイネティクス プレート本体においてパイロキシンーガーネット転移が起こるには含水量700-4000wt.ppmH_2Oにおいて1800K以上の高い温度が必要であることが明らかになった。沈み込み帯での低温下ではこの反応は起こらず、ガーネットとパイロキシンはそれぞれ化学組成を変化させることなくpseudomorphicにそれぞれの高圧相へと相転移していくことが示唆される(Nishi, et. al., PEPI投稿中)。また海洋地殻玄武岩組成においても同様の実験に着手している。 2)ポストスピネル分解相転移カイネティクス 23-26GPa,1200-1800Kにおいて相転移のカイネティクスに対する温度と含水量依存性を明らかにするための放射光X線その場観察実験を行っている。これまでのところ1000-2000wt.ppmH_2Oの水がポストスピネル相転移の成長速度、核生成速度とも大きく促進させていることが明らかになった(Kubo, et. Al., PEPI投稿中)。定量的な議論を行うために更に継続して実験を行う予定である。 3)2次元X線回折時分割測定を用いたカイネティクス研究 これまでのエネルギー分散法とは異なり、角度分散法を用いた放射光2次元X線回折時分割測定法を新たに高圧カイネティクス研究に適用する実験を行っている。この手法を用いてSiO_2のコーサイトースティショバイト相転移において個々の結晶粒が核生成し成長する過程をX線その場観察することに成功した。今後この手法をオリビンースピネル相転移カイネティクス実験に取り入れていく予定である。
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