本課題の目的はタンパク質の構造と機能を明らかにするために、単一のタンパク質の振動分光法を世界にさきがけて成功させることにある。生命現象の理解を深める上で、その機能を司るタンパク質を研究することは非常に重要であることは論を待たない。単一分子分光では、一つのタンパク質のみを観測することによって、上記のような構造の多様性による実験の難しさを除去できるため、国内外で広く試みられている。特に、低温下では熱による構造変化を抑えることができるため、均一幅が支配する非常にシャープな自家蛍光の電子スペクトルが得られている。しかし、得られる電子スペクトルは構造や機能を間接的に反映するものの、直接的な情報を与えない。このため、分光学的な議論をするためには統計量の結果が必要であるため、従来法では平均構造を議論するにとどまっている。そこで、我々は単一のタンパク質を測定することで、従来法にはない新しい分光法を作り上げることを目標に本課題を開始した。 本年度は、単一タンパク質の振動分光を実現するため、本年度購入した中赤外レーザーの特性を調べ、実験に使えるようにパルス整形した。中赤外レーザーの空間モードは4枚のフッ化カルシウムレンズを用いることで、ほぼガウス関数に近似できるようになり、空間広がりもゼロに近づけた。また、中赤外レーザーの空間モードの日々の再現性は非常に高く、一度調整を行えば、一年を通じて無調整で使えることを確認した。さらに、上記のレーザーを組みこんだ新しい顕微鏡を設計し、単一分子の蛍光測定の試験を行った。その結果、中赤外レーザーを組みこむことによる光ノイズはほぼ無視でき、本課題が来年にも実行できる見通しが立った。
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