本課題の目的はタンパク質の構造と機能を明らかにするために、単一のタンパク質の振動分光法を世界にさきがけて成功させることにある。生命現象の理解を深める上で、その機能を司るタンパク質を研究することは非常に重要であることは論を待たない。単一分子分光では、一つのタンパク質のみを観測することによって、上記のような構造の多様性による実験の難しさを除去できるため、国内外で広く試みられている。特に、低温下では熱による構造変化を抑えることができるため、均一幅が支配する非常にシャープな自家蛍光の電子スペクトルが得られている。しかし、得られる電子スペクトルは構造や機能を間接的に反映するものの、直接的な情報を与えない。このため、分光学的な議論をするためには統計量の結果が必要であるため、従来法では平均構造を議論するにとどまっていた。 4年間に渡る研究の結果、赤外誘起の光学現象を発見した。この現象を用いて、世界で初めて、単一タンパク質(牛血清アルブミン)のαヘリックス構造を取っているペプチド主鎖のCO伸縮振動の赤外吸収スペクトルの取得に成功した。さらに、本分光法の実行の元となる物理現象(赤外誘起の単一分子蛍光増大現象)を発見した。本年度は、その成果をまとめJournal of Physical Chemistry Lettersに投稿、掲載された。さらに、発見した光学現象の解明を目指した研究を進め、2011年の日本化学会で報告した。
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