電極反応が進行する過程では、いつも表面への分子の吸着脱離が伴い、水分子の構造と共に電気二重層の構造が変化する。この電気二重層の構造変化は、電極電位や電気容量を変化させるため、これらの変化速度や変化量を明らかにすることは、電極反応を解明するうえで重要であると考えられる。そこで本研究では、モデル分子としてCOが吸着したPt電極に強いレーザーパルスを照射してCOを脱離させ、それに伴う電気二重層の構造が変化する過程を電極電位の変化から追跡した。 我々は、これまでに、負電位で電極にレーザー照射で界面を加熱すると、電位が負にシフトすることを見いだしていた。これは、負電位では水分子は双極子モーメントを下に向けて整列し、電気二重層の電場を遮蔽する役割を果たしているが、加熱で配向が乱されると、遮蔽効果が小さくなるためである。この電位変化は、界面温度変化に追随し、冷却に伴い、20マイクロ秒以内に回復する。しかし今回、我々はさらに強いレーザーパルスを照射すると、約70マイクロ秒かけて逆の正側に電位がシフトすることを見いだした。赤外反射吸収分光法を用いて吸着COの変化を調べたところ、COの脱離により正電位シフトすることが分かった。負電位でCOが脱離すると、空きサイトに水分子が双極子モーメントを下に向けて吸着する。その結果、遮蔽効果が増大し、電位がプラスにシフトしたためであると考えている。この電位変化速度は、電場強度が強くなるに従い、遅くなった。これは、電場が強くなると、水和したカチオンの濃度が増え、水分子の構造変化がより長距離まで影響を受けるためであると考えている。 また、COの吸着熱は低電位では大きくなるにもかかわらず脱離の効率は低電位の方が促進された。これは、COと置き換わる水分子の吸着熱がより大きくなるために、COの脱離を促進したためであると考えている。
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