研究概要 |
申請者は、これまでに、チチカビ(Geotrichum candidum)由来のアルコール脱水素酵素を超臨界二酸化炭素中で用いて、不斉還元反応に成功している。そこで、本研究では、分子生物学的手法により本アルコール脱水素酵素を超臨界二酸化炭素中での反応により適するものへと改良することを目的としている。現在までに、チチカビからの酵素の単離精製を行い、さらに、本酵素の諸性質を検討した。チチカビ中には、アセトフェノン誘導体を立体選択的に還元し、光学活性アルコールを生成する酸化還元酵素が、2種存在する。それらはNADH及びNADPH依存性で高い立体選択性、広い基質特異性を有しており、さらに基質中のフッ素置換数を認識するなど、それぞれ異なった立体選択性を示す。NADH依存酵素は回収率7.1%, NADPH依存酵素は回収率1%で、121倍, 131倍に精製された。また、NADH依存酵素については、N末端及び内部アミノ酸配列の決定にも成功した。 アセトフェノン還元酵素のN末端アミノ酸配列は12残基はXGKVPETXKGYVFTと決定された。FASTA分析により、10アミノ酸は、Saccharomyces bayanus由来のアルコール脱水素酵素1と80%の類似を示し、Geotrichum capitatum由来のN-benzyl-3-pyrrolidinol脱水素酵素ともいくつかの一致もみられた。 内部配列の15残基はAENRTNYGLGYPGGYと決定され、その配列はFASTA分析によって、13アミノ酸はGeotrichum capitatum由来のN-benzyl-3-pyrrolidinol脱水素酵素と、69%の同一性を示した。 本酵素をイオン交換樹脂に固定化し、ケトンの不斉還元反応を行ったところ、固定化前よりもエナンチオ選択性、耐熱性、耐酸性、及び耐アルカリ性が向上し、超臨界二酸化炭素中でも高い不斉収率を維持できることも確認できた。さらに超臨界二酸化炭素中で使用した固定化酵素でも数回の再利用が可能であった。このように生体触媒を用いた二酸化炭素を原料とする反応の効率化、光学活性体の合成に成功した。
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