研究概要 |
本研究では、炭素原子のみから構成される芳香環の高エナンチオ選択的な触媒的不斉水素化法の開発を目指し、以下の研究を実施した。 (1)ナフタレンの触媒的不斉水素化に関する研究 2,6-ナフタレンジカルボン酸エステルの触媒的不斉水素化について検討した。その結果、エステル置換基としてイソブチル基をもつ基質を用い、不斉配位子PhTRAPのルテニウム錯体を触媒として、イソブチルアルコール溶媒中、触媒量のDBUを添加し、反応温度40℃で反応を行うことにより、2,6-テトラリンジカルボン酸エスエルを単離収率99%、鏡像異性体過剰率83%eeで得ることに成功した。さらに、2,6-あるいは2,7-ジアルコキシナフタレンの触媒的不斉水素化についても、同様の反応条件で反応を行うことにより、目的の光学活性テトラリンをそれぞれ89%ee,92%eeでほぼ定量的に得ることに成功した。 (2)キノリンのベンゼン環選択的水素化に関する研究 PhTRAP-ルテニウム錯体を触媒として2-フェニルキノリンの水素化を試みた場合、通常得られる1,2,3,4-テトラヒドロキノリンは全く得られず、5,6,7,8-テトラヒドロキノリンが高収率で得られた。そこで、任意の位置にメトキシ基をもつ一連のキノリンを合成し、それらについてPhTRAP-ルテニウム錯体触媒による水素化を試みた。ピリジン環上にメトキシ基をもつキノリンの水素化では5,6,7,8-テトラヒドロキノリンのみが選択的に生成したが、ベンゼン環上の5,6,7位に置換基を持つキノリンの水素化では1,2,3,4-テトラヒドロキノリンの生成が10-15%程度確認された。ところが、8-メトキシキノリンの水素化ではピリジン環の還元はほとんど観測されず、5,6,7,8-テトラヒドロキノリン体が高収率で得られた。
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