イリジウム錯体と特異的に結合するモノクローナル抗体、およびモノクローナル抗体水溶性ポルフィリンであるテトラカルボキシフェニルポルフィリン(TCCP)に強く結合するモノクローナル抗体を一連の細胞工学的手法により作製した。イリジウム錯体と抗体との複合体はアセトフェノンの移動水素化反応における立体選択的触媒となることがわかった。TCPPに対する抗体の一種、抗体2B6は電子ドナーであるTCPPの亜鉛錯体(ZnTCPP)と2.1×10^<-8>の解離定数をもって錯体形成し、ZnTCPPの励起三重項寿命は抗体結合により0.5msから1.2msへ長寿命化した。この抗体-ポルフィリン錯体に電子アクセプターであるメチルビオロゲン(MV^<2+>)を添加すると、ZnTCPPからMV^<2+>への電子移動が促進され、抗体非存在下と比較して19倍のカチオンラジカル(MV^<+.>)が生成した。このMV^<+.>生成速度は1.3xlO-^<2>s-^<1>に達することがわかった。分子量5万のH鎖2本と2万5千のL鎖2本からなる抗体2B6をdithiothreitolで処理し、H鎖とL鎖に分割した。抗体2B6のH鎖は抗体そのものと同様にZnTCPPと強く結合し、ZnTCPPからMV^<2+>への電子移動はH鎖の存在下でも促進された。一方L鎖存在下でのMV^<+.>生成量はポルフィリンのみの系と同じであることから、MV^<+.>の効率的生成はZnTCPPと抗体2B6あるいは2B6-Hが結合してはじめて見られる現象であることがわかった。この系にプロトンの還元触媒として白金コロイドを添加し、水素発生システムを構築した。 ポルフィリンへの光照射による水素発生量は抗体2B6存在下において最も多く、ZnTCPPのみの系の18倍になった。H鎖存在下ではその4割程の水素発生が見られた。抗体L鎖存在下ではポルフィリンのみと同様、微量であった。抗体のH鎖とL鎖が協同的にZnTCPPからMV^<2+>への電子移動を制御することで効率的な水素発生が起こったものと考えられる。
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