研究概要 |
石油化学工業の中でも重要なプロセスの一つである低級オレフィン/パラフィンの分離は, 主に低温・高圧条件下での蒸留により行われ, より効率的な分離手法の開発が望まれる. Ag(I)に代表されるd10配置の金属イオンは, 不飽和炭化水素分子と, σ結合に加えてd軌道から炭素-炭素二重(三重)結合の_<II>*軌道への逆供与により相互作用し, 高い親和性を示す. 我々はこれまでに, ポリオキソメタレートとマクロカチオンとのナノ構造体を合成し, これらの構造体が, 炭素鎖一つ分の違いで極性分子を分離すること, 親水性分子と疎水性分子を分離すること等, 特異的な分子収着・分離特性を示すことを報告してきた. そこで, 構造体にAg(I)を導入することにより, 不飽和炭化水素分子に対する高い収着・分離特性が得られることを期待した. Ag2[Cr3O(OOCC2H5)6(H2O)3]2[SiW12O40][1]は, ポリオキソメタレート([SiW12O40]4-)とマクロカチオン([Cr3O(OOCC2H5)6(H2O)3]+)がac面に沿って配列して層を形成し, これらの層がb軸方向に積層した構造を有した. 層間に分子が侵入できるような細孔は存在しない. Ag(I)は層間に位置し, ポリオキソメタレートの近傍に存在した(Ag-O=2.29, 2.31Å). 1の収着等温線を測定した結果, パラフィン類の収着量は0.2-0.3 mol mol-1であり, 粒子表面への収着量と同程度であった. 一方, 不飽和炭化水素類の中でもエチレン, プロピレン, n-ブテン, アセチレン, メチルアセチレンの収着量は1.0 mol mol-1より大きく, ヒステリシスが存在した. このようなヒステリシスは, 固体ホストと収着分子との相互作用が大きい場合に観察される. 一方, イソブテン, n-ペンテンといった, より分子サイズの大きなオレフィンの収着量は小さかった. 粒子表面への収着量を抑えるため, 結晶性の1を用い, 室温・1気圧下でのエチレン/エタン分離係数を算出したところ, 190±50とこれまでの報告例(Ag(I)ベントナイト・106)と比べて大きな値を示した
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