研究概要 |
エネルギー機器用構造材料のオーステナイト合金, Ni基合金の応力腐食割れ(SCC)現象のメカニズムを検討する目的で, 量子分子動力学法を用いて原子拡散を伴う固液界面反応ダイナミクス解析を行った. 20年度は, 応力依存の異方性拡散現象, 応力, ひずみによって誘起・加速される化学反応現象に着目し, Fe-Cr-Ni, Ni-Cr合金系の高温水(288℃)環境における合金表面反応のひずみ依存性や欠陥の影響について検討した. ひずみを負荷した合金表面と無ひずみの合金表面について, H_2Oの分解反応及び分解後に発生する酸素, 水素の拡散現象について比較を行ったところ, ひずみ負荷表面において酸素, 水素が合金内部へ素早く拡散していく様子が観察された. 酸素はCrによって捕捉されるためCrを含む合金系では拡散速度が低下したが, 水素はどの合金系においてもほぼ同じ拡散速度であり, 水素拡散に及ぼす元素の影響はほとんどみられなかった. 合金内部に拡散した水素は負に帯電していたことから, 金属原子から電子を奪い金属結合を弱めると考えられる. したがって, ひずみによる水素の増速拡散現象とその結果生じる合金内部の水素濃度の増加が, SCCによるき裂の発生や進展に大きな影響を及ぼすものと考えられる. また, ひずみによる増速拡散現象が, 酸素や水素ばかりでなく, 合金構成元素においても生じることがシミュレーション, 実験の両方から確認された. 特に, 格子不整合の大きい界面(金属・酸化物界面や粒界)で拡散が加速されることが分かった. 以上の結果より, ひずみによる表面化学反応の促進, 増速拡散現象がSCCメカニズムの重要な因子である可能性が示された.
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