研究概要 |
本年度は, 前年度に開発した多チャネル同時超音波送受信システムにより高フレームレート(約3500 Hz)で得られた超音波信号を用いた動脈壁変位ベクトルおよび血流速度計測法について検討を行った. 超音波を用いた生体組織の変位計測では, これまで超音波ビーム方向の成分について高精度な計測が達成されていた. これは, 超音波ビーム方向の超音波信号の変動周期(超音波周波数に対応)が既知であるため, 対象物変位による超音波信号の位相変化を検出し, 変動周期(波長)との関係から変位を推定できるからである. それに対し, 超音波ビームと直交する(ラテラル)方向の信号変動周期は不明であるため, 位相を用いたラテラル方向変位の高精度推定は困難であった. 本研究では, ヒルベルト変換により得られる解析信号から, その位相変化と対象物のラテラル方向変位との関係を推定する手法を開発し, これまでに開発したビーム方向変位推定法と合わせて, 動脈壁変位ベクトル計測法として確立した. 血流計測については, 高フレームレート(3500 Hz)で得られた超音波血流イメージに対してオプティカルフロー法を適用し, 血球からの超音波エコーの2次元トラッキングを行い, 血流速度の空間分布を推定した. その結果, 内腔中心部に比べ動脈壁に近い領域の血流速度が小さいという銃従来の報告と同様の速度プロファイルの傾向が得られた. これらの結果は, 従来成し得なかった, 動脈壁の変位ベクトルおよび血流速度という循環系診断に有用な指標を同時計測するための手法の基礎が確立されたことを示すものである.
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