研究概要 |
本年度において得られた成果は以下に列挙される. 1. 新設ならびに既設構造物の耐久性を考える場合,ひび割れ損傷を如何に取り扱うかが重要なポイントである.本研究では,既存の空隙構造形成モデルを拡張して,マクロなひび割れ発生を表現する簡易手法の提案を行った.ナノ~マイクロメートルスケールの寸法から構成されるコンクリートの微細幾何構造情報に,ひび割れ空間に相当するミリメートルスケールの空隙構造を付加し,損傷により加速される塩分浸透現象の再現に成功した. 2. 変動環境や施工の不確実性を含む様々な条件下での耐久性予測を高精度化するために,熱力学連成解析システムにおける水分平衡・移動,中性化進行,塩化物イオン移動・平衡モデルの高度化を行った.これにより任意の温度環境や乾湿繰り返しなど,長期にわたる複雑な環境作用のもとでの劣化進行予測が可能となった. 3. 提案システムの検証を行うために,現在供用中の地下鉄道トンネルを対象として劣化進行予測を試みた.約30キロメートルの延長を有する構造物の非破壊試験データ(かぶり厚)を取得し,熱力学連成解析システムへの入力とすることで,今後30年間の中性化深さならびに塩化物イオン浸透予測を行ったものである.はつり出した鋼材腐食状況やかぶりコンクリートの浮き・剥離状況との比較から,開発を続けてきた解析モデルは現実の劣化を概ね捉えていることが明らかとなった.また得られた劣化進行予測をもとに,補修の優先順位を算定するシステムを合わせて開発し,より合理的なストックマネジメントを支援する技術開発に成功した.
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