市民による自主防災や発展途上国での利用を可能にするために、低コストで簡便な斜面災害の予兆のモニタリングシステムの開発に取り組んだ。先行研究で、斜面上で測定した傾斜及び土壌水分量のデータを無線で転送する装置を試作していたが、19年度は、大きさと電力消費を大幅に抑えることのできるMEMS技術を使った傾斜計の導入、電力消費を抑えるためのスリープモードを含む電源管理の徹底、最大600mまでデータを送信できる特定小電力無線モジュールの導入、携帯電話回線を使ったインターネットへのデータ送信など、実用化に必要な改良を施した。 これを用いて堤防模型の人工降雨実験のモニタリングを行い、斜面崩壊前の挙動を観測した。また、省電力化により、10分ごとに計測した場合、単3アルカリ電池4本で1年以上動作できることを確かめた。さらなる改良として、手作りでなく工場生産できるユニットを設計し、次年度に予定している野外の実斜面での長期モニタリングを行う条件を整えた。 一方、このような低コストのモニタリングの手段が実用化されることで、比較的小規模な斜面でも、常時モニタリングを行い、降水量と土壌水分量の経時変化の関係から、斜面の透水性や水はけなどの水理特性を把握し、斜面防災に役立てられる可能性がある。19年度は、もっとも単純な条件として、1次元の鉛直カラムの模型地盤に断続的な人工降雨を与え、地盤中の水分分布の浸水、排水の様子を計測した。その結果、排水過程の進行速度は、雨の強度や長さにかかわらず土壌水分量だけに依存しており、降水パターンによらない斜面の水理特性を、定量的に評価できる可能性を示した。
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