本年度はまず、床スラブの損傷状況と鋼部材の塑性変形量関係に関する基礎データを得るため、床スラブを有する鋼部材の繰り返し載荷実験を行った。試験体は柱と梁を反曲点位置で切り出した卜字形部分架構である。実験は試験体の柱端部をピン治具で支持した状態で梁の自由端に強制変位を与えて行った。実験パラメータは、梁端溶接部におけるスカラップの有無と、床スラブの有無とした。本年度は既往の実験結果と併せて整理した。その結果、床スラブの損傷状況に鋼部材の強度が及ぼす影響は小さく、床スラブに発生した最大ひび割れ幅は梁端部の塑性変形量に比例して成長することが分かった。しかしながら、柱梁接合部パネルの降伏が生じる場合には床スラブに発生したひび割れ幅と梁端部の塑性変形量との間に相関は見られなかった。 また、2007年9月には兵庫県三木市のE-ディフェンスと呼ばれる3次元振動実験施設において行われた実大4層鋼構造建築物の振動破壊実験に参加し、梁端部の塑性変形量と床スラブに生じるひび割れ損傷の状況を観察した。実験は入力波として1995年の兵庫県南部地震で記録されたJR鷹取波が採用され、加速度倍率を20、40、60、100%倍と大きくして試験体を崩壊に至らしめたものである。この実大実験において試験体は第1層の柱頭・柱脚に局部座屈が発生して層崩壊に至ったため、梁はほぼ弾性範囲に留まり、損傷は小さいものであった。しかしながら、実大鋼構造建物における床スラブのひび割れ状況と梁端部の塑性変形量に関する実験データを得ることができ、特に実大鋼構造建築物において観察された床スラブの損傷状況は同じ仕様で行った卜字形部分架構における床スラブの損傷状況と対応することが確認できた。
|