初年度に導入した超高温酸化・不活性雰囲気炉および応力場制御プロセス装置を用い、高純度Al_2O_3、Y_2O_3およびTZPに極微量のカチオンドープおよび電場・応力場・雰囲気制御下での焼結プロセスを行った。これにより、種々のナノ界面構造を有する酸化物多結晶体を作製した。また、ナノ界面物質輸送現象の評価を目的として高温塑性特性、イオン伝導性、拡散係数の評価、原子間力顕微鏡を用いた界面エネルギーの計測によりナノ界面物質輸送現象の実験的評価を行った。一方、電子エネルギー損失分光法(EELS)による電子状態の解析に併せ、分子軌道計算を中心とした理論計算に基づき、ナノ界面における原子間相互作用と原子輸送現象との相関についての知見を得るに到った。例えば、粒界化学結合状態と輸送現象に関する知見を応用して製造した超塑性伸び1000%超のTZP単相材について、その高温延性とイオン伝導性が、ナノ界面での輸送現象および界面エネルギーとの相関で良く説明できることを示した。また、難焼結性Y_2O_3について、電子構造に起因する輸送現象への影響についての知見に基づき、適切なカチオンを選択することで焼結性を大きく向上させることに成功した。実際、緻密化に要する温度は200~300℃低減でき、微細結晶粒から成る緻密多結晶体を得ることが出来る。これらはいずれも原子間相互作用に基づくナノ固相反応と輸送現象制御という、研究代表者独自の発想から生まれた成果であり、当初の研究目的を達成したと共に今後一層の発展が期待される。研究成果は招待講演を含む国内外での学会ならびに欧文学術論文誌上において発表し、その他日本語解説やホームページでも紹介に努めた。
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