1、藻類とワムシの個体群動態において、従来の捕食者-被食者モデルでは説明できない現象を発見した。すなわち、ワムシ捕食者の密度が大きく変動するのに対して、被食者である藻類の密度はほとんど変化せず、あたかもワムシと藻類の間に捕食-被食関係が存在しないかのように見える現象である。従来の理論では説明できないこの現象が、藻類個体群中に異なる形質(捕食防衛と栄養塩をめぐる競争能力)をもつ藻類遺伝子型(クローン)が存在し、自然選択によりそれらの頻度が互いに補償するように変化することで生じることが、数理モデルによる解析によりわかった。同様の奇妙な動態は、大腸菌-ファージの系でも過去に観測されており、同様のメカニズム(自然選択による遺伝子型頻度の周期的変化)により説明できることを明らかにした。これらの結果は、捕食者-被食者系の動態に関する従来の理論に改訂を迫るものであり、個体群動態の新しい理解を提供するものである。 2、緑藻(Chlorella vulgaris)とワムシ(Brachionus calyciflorus)からなる実験群集の連続培養系(ケモスタット実験系)を新規に東京大学にて構築した。当初は藻類個体群へのバクテリアの汚染が問題であったが、藻類を単離して単独培養に成功した。しかし、藻類とワムシの長期培養には未解決の課題が残っており、次年度以降の解決を目指している。 3、緑藻の異なる遺伝子型(クローン)の相対頻度を定量できるAsQ-PCR法(Allele specific Quantitative PCR)のプロトコルを改訂し、信頼できる推定方法として2つの実験系にも適用できることを確認した。
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