本研究の目的は、葉緑体において、広範なタンパタ質を分解し、多くのタンパク質の代謝速度を決めている分解経路の概要を明らかにすることにある。大腸菌や真核細胞の細胞質においては、不要になったタンパク質の分解を担うタンパク質分解システムの概要が明らかになっている。葉緑体においては、いくつかのプロケアニゼの存在は明らかになっているが、それらの役割や、広範なタンパク質を基質とする分解経路については、未知の部分が多い。本研究では、いくつかのモデル生物を用いて、これらの分解経路を明らかにする。本年度においては、シロイヌナズナの葉緑体におけるタンパク質の組成を2次元電気泳動で明らかにした。また、クロロフィルbを合成する酵素である、クロロフィリドaオキシゲナーゼ(CAO)をモデル系としてプロテアーゼに関する研究を進めた。 CAOのN末端のドメインのうち、110アミノ酸からなるAドメインの存在が、CAOの基質依存的分解に必要であることが既に明らかになっている。今年度は、このAドメインを10アミノ酸ずつ短くしたタンパタ質をシロイヌナズナで発現することで、Aドメインの内部の分解のシグナル配列を同定した。その結果、Aドメインの中央部分に存在する、およそ10アミノ酸の配列が分解の誘導に中心的な役割を果たしていることが明らかとなった。また、Aドメインの分解に関わるプロテアーゼを同定するために、Aドメインを過剰発現した形質転換株に突然変異を誘導し、Aドメインの分解に異常のある変異体をスクリーニングした。その結果、67株の変異株を単離することができた。
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