本研究の目的は、葉緑体において、広範なタンパク質を分解し、多くのタンパク質の代謝速度を決めている分解経路の概要を明らかにすることにある。大腸菌や真核細胞の細胞質においては、不要になったタンパク質の分解を担うタンパク質分解システムの概要が明らかになっている。葉緑体においては、いくつかのプロテアーゼの存在は明らかになっているが、それらの役割や、広範なタンパク質を基質とする分解経路については、未知の部分が多い。本研究では、いくつかのモデル生物を用いて、これらの分解経路を明らかにする。また、モデルシステムとして、シロイヌナズナのクロロフィルb合成酵素である、クロロフィリドaオキシゲナーゼ(CAO)をモデル系としてプロテアーゼに関する研究を進めた。 昨年度、シロイヌナズナのCAOのN末端に存在する、プロテアーゼシグナル配列を決定した。この配列と相同な配列をデータベース上で検索したところ、葉緑体ゲノムにコードされるCP47のN末端に類似配列が存在することが明らかになった。この類似配列をN末端に付加したgreen fluorescent protein(GFP)をシロイヌナズナで発現したところ、GFPの分解が促進された。この結果は、CAOのシグナル配列が、葉緑体において、一般的なシグナル配列として機能していることを示唆している。 また、同様に、CAOのシグナル配列と相同性のある大腸菌のglutamy1-tRNA reductaseの配列をGFPに付加してシロイヌナズナで発現した場合は、GFPの安定性に対する影響は見られなかった。この結果は、シグナル配列の中の一部のアミノ酸がシグナル配列としての機能に重要であることを示唆している。
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