本研究では、膜内部での蛋白質の切断(RIP;regulated intramembrane proteolysis)という生命現象の仕組みを明らかにすべく、細菌由来の膜内プロテアーゼRseP蛋白質の立体構造解析に取り組んだ。「いかにして膜内で膜蛋白質め特異的な加水分解が行われているのか?」というRIP現象の素朴な疑問に答えるべく、RseP蛋白質の高分解能結晶構造の決定を目指し研究を進めた。 結晶解析の第一歩は、目的蛋白質の大量発現系の構築である。本研究では、細菌由来の膜蛋白質RsePを取り上げているので、大腸菌を宿主として用い、大量発現系の構築に取り組んだ。RsePに限らず、膜蛋白質の発現では、発現効率の高いシステムで無闇に組み換え蛋白質を大量生産させても、結晶化に適した安定な蛋白質は得られにくい。膜への組み込みが適切に行われた試料を得るには、むしろ、適度に高発現なバランスのとれた発現系が有効であるとされている。本研究でも、蛋白質発現の常套手段であるpETシステムなどは用いず、一般にはそれよりも発現効率が低いとされる系を用いることで、大量発現系を構築することが出来た。 膜蛋白質の試料調製では、精製条件の検討、特に膜からの可溶化条件の検討も重要なステップとなる。そして、可溶化条件の検討で最も重要となるのは、言うまでもなく、界面活性剤の選択である。目的蛋白質に適した界面活性剤の選択が、結晶化の成否を左右するとも言える。どの界面活性剤が適しているかは、可溶化後の膜蛋白質の分散状態によって判断できる。本研究では、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分散状態を分析したが、残念なことに、RseP蛋白質は多分散の状態であり、現在のコンストラクトのままでは結晶化に適さないことが判明した。本年度の研究結果を受け、安定性と分散状態の改善を目指し、さらなる条件検討を進めて行く予定である。
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