小胞体は分泌蛋白質や膜タンパク質の合成の場であり、そこには蛋白質の高次構造形成反応を促進し、かつ不良品の蛋白質が過剰に蓄積しないよう厳正にコントロールするシステムが存在する。特にジスルフィド結合の形成・異性化・開裂は、正しい高次構造を促す上でも、いったんミスフォールドした蛋白質を修復または除表する上でも極めて重要な反応である。平成22年度、我々は、ヒト細胞の小胞体において補酵素であるFAD分子と共役してジスルフィド結合を創りだす酵素Ero1の結晶構造を2.3A分解能で決定することに成功した。さらに構造情報に基づき系統的な生化学解析を行うことにより、Ero1が周りのレドックス環境をセンスし自身の酸化活性を制御する機構およびEro1がパートナー蛋白質であるPDIを特異的かつ効率よく再酸化する仕組みを分子レベルで明らかにした。さらに我々は、小胞体においてミスフォールド蛋白質の誤ったジスルフィド結合を選択的に還元し、ミスフォールド蛋白質の分解を促進する酵素ERdj5全長の結晶構造解析にも成功した。これと並行して進めた機能解析の結果と合わせ、ERdj5がパートナー蛋白質であるEDEMおよびBiPと協同して蛋白質分解を促進する作用機序を分子構造レベルで解明した。以上の仕事により、高等生物細胞の小胞体における蛋白質品質管理の仕組みに関する理解が大きく深まった。Ero1αに関する研究成果はEMBO Journal誌とJ.Biol.Chem誌に、ERdj5に関する研究成果はMolecular Cell誌にそれぞれ掲載した。特筆すべきことに、ERdj5に関する研究成果Molecular Cell誌の表紙を飾った。
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