1分子観察用の顕微鏡下に形成させた人工脂質平面膜上に、精製因子のみによってCOPII小胞形成反応を再現して解析を行った。輸送基質タンパク質のモデルとしてBetlpを選び、蛍光色素Cy3で標識したBetlp-Cy3を調製した。これを、顕微鏡下に水平方向に形成させた人工脂質平面膜に再構成し、COPII小胞形成因子存在下におけるBetlp-Cy3の挙動を観察・計測した。膜上のBetlp-Cy3にSarlp-GTPを添加すると、Betlp-Cy3の拡散係数が小さくなることから、両者が複合体を形成していると考えられる。また、このときのBetlp-Cy3の蛍光強度の分布は一様で、蛍光の褪色が1段階で起こることから、Betlp-Cy3/Sarlp複合体は膜上でモノマーとして存在していると考えられる。ここにさらにSec23/24pを添加してprebudding complexを形成させたところ、Betlp-Cy3の蛍光強度の分布と蛍光の褪色の様子から、一部のprebudding complexが2量体を形成することが明らかとなった。次に、膜上のBetlp-Cy3にすべてのCOPII因子、およびGTPを添加したところ、Betlp-Cy3が膜上で集合してくる様子が観察された。集合した輝点の蛍光強度から、各輝点に含まれるBetlp-Cy3は約70分子と見積もられ、これは1個のCOPII小胞に含まれるコートタンパク質の数とよく一致する。これに対して、GTPの非加水分解アナログであるGMP-PNP存在下で観察を行ったところ、膜上に集合した輝点に含まれるBetlp-Cy3の数が、GTP存在下の時と比べて著しく減少していた。このことから、輸送基質タンパク質のCOPII小胞への取り込みは、SarlpのGTP加水分解サイクルによって行われているということが明らかとなった。
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