研究概要 |
受精は生命現象の始まりという極めて重要な現象にも関わらず、分子生物学的な機構については未知の部分が多い。特に膜融合機構に関する研究は世界的に見ても詳細な解明に至っていない。これまでに我々は、受精の膜融合を特異的に阻害するモノクローナル抗体を用いて、世界で始めて精子側の融合因子Izumoを発見した(Nature,Inoue N et.al.,2005)。 今年度の若手研究(A)の成果として、Izumoの融合時に機能する詳細な解析を行なうために、種間でよく保存されたIzumoのN結合型糖鎖を欠失する雄マウスを作製し、その精子の融合能に関する研究成果を発表した(BBRC,Inoue N et.al.,2008)。N型糖鎖がないIzumoは、精子の成熟に伴い、精巣上体尾部で特異的に分解され、その結果、その結果、その精子の受精能、融合能が劇的に低下した。しかし、少ないながらも、融合能が存在することから、Izumoの糖鎖が直接融合に機能しないことが明らかになった。 さらにIzumoを介する膜融合機構を解明するうえで重要な位置を占める、Izumoの一次構造上の融合機能ドメインを明らかにすることに成功した(未発表データ)。このドメインは分子間の接着、相互作用に機能するとされている免疫グロブリン様ドメインよりもN末端の領域に存在し、種間でよく保存され、かつIzumoに特異的な配列であった。今後はこのドメインのなかで、重要なアミノ酸残基をさらに絞り込み、Izumoの詳細な融合活性化機構を明らかにする予定である。
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