研究概要 |
生殖隔離現象のうち、雑種F1個体は生育も稔性もほぼ正常であるのに、F2以降の世代で個体の致死、弱勢もしくは不稔が生じる現象を雑種崩壊という。雑種崩壊は、組換え近交系(RIL)や準同質遺伝子系統(NIL)を作成する際、頻繁に観察される現象であるが、この現象は、その原因となる遺伝子の近傍に位置する有用遺伝子の発見や利用の際に大きな障害となる。日本型イネ品種コシヒカリとインド型イネ品種ババタキの雑種後代で、F_2以降の世代において分げつ数が少ない弱勢個体が出現することにより、雑種崩壊が発生する。この雑種崩壊について遺伝学的な解析を行ったところ、第2染色体に座乗するhybrid breakdown2 (hbd2)という遺伝子がババタキ型ホモ、第11染色体に座乗するhbd3という遺伝子がコシヒカリ型ホモとなった個体が弱勢表現型を示す。平成20年度までに、分離集団約13,000個体を用いたポジショナル・クローニングによって、hbd2候補領域約17kbにまで特定し、そこにコードされている遺伝子がCasein Kinase Iが座乗すること明らかとしていた。平成21年度は、hbd2がCasein Kinase Iをコードしているか調査した。ババタキ型のCasein Kinase Iが機能喪失型のアリルである可能性を検討するため、コシヒカリの遺伝的背景におけるCasein Kinase Iのアンチセンス系統を作成した。これらの系統はCasein Kinase Iの転写量が減少していたにも関わらず、弱勢のような異常な表現型を示さなかった。このことから、今回の弱勢表現型がCasein Kinase Iの機能喪失によって引き起こされている可能性は低いと考えられた。次にコシヒカリの遺伝的背景にコシヒカリ型Casein Kinase Iおよびババタキ型Casein Kinase Iの過剰発現体を作成したところ、コシヒカリ型Casein Kinase Iの過剰発現体では表現型の異常は見られなかったものの、ババタキ型Casein Kinase Iの過剰発現体はNIL-hbd2で見られたような弱勢表現型を示した。以上の結果から、ババタキ型Casein Kinaseが雑種崩壊の原因であると結論した。
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