生殖隔離現象のうち、雑種F1個体は生育も稔性もほぼ正常であるのに、F2以降の世代で個体の致死、弱勢もしくは不稔が生じる現象を雑種崩壊という。雑種崩壊は、組換え近交系(RIL)や準同質遺伝子系統(NIL)を作成する際、頻繁に観察される現象であるが、この現象は、その原因となる遺伝子の近傍に位置する有用遺伝子の発見や利用の際に大きな障害となる。日本型イネ品種コシヒカリとインド型イネ品種ハバタキの雑種後代で、F_2以降の世代において分げつ数が少ない弱勢個体が出現することにより、雑種崩壊が発生する。この雑種崩壊について遺伝学的な解析を行ったところ、第2染色体に座乗するhybrid breakdown2 (hbd2)という遺伝子がハバタキ型ホモ、第11染色体に座乗するhbd3という遺伝子がコシヒカリ型ホモとなった個体が弱勢表現型を示す。平成21年度までに、hbd2がCasein kinase Iをコードし、ハバタキ型のCasein kinase Iはhbd3との相互作用で自己免疫反応を引き起こすことを明らかとしていた。また、hbd3みの候補領域は免疫反応に関わるNBS-LRRがクラスタを形成していることも明らかとしていた。平成22年度は、hbd3の原因遺伝子の単離を試みた。今回の雑種弱勢が自己免疫反応によって引き起こされていることから、hbd3の原因遺伝子がクラスタを形成しているNBS-LRRのいずれかである可能性があると考えた。NBS-LRRは、タンパク質-タンパク質相互作用によって免疫反応を誘導することが知られている。そこで、hbd3候補領域内のすべてのNBS-LRRについて、hbd2の原因遺伝子であるCasein kinase Iとの相互作用を調べた。原因遺伝子のNBS-LRRはコシヒカリ型とハバタキ型とで相互作用に違いが見られることが期待されたが、現在までにそのような結果は得られていない。このことは、実験条件の再検討とともに、相互作用は間接的なものである可能性も示唆した。そのため、hbd3原因遺伝子の特定するため、各NBS-LRRのノックアウトの作成など、遺伝学的アプローチも進めている。
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