1. アラキドン酸(20 : 4n-6)生産性糸状菌Mortierella alpina IS-4から新たな脂肪酸鎖長延長酵素MALCEI遺伝子を単離した。酵母発現系を用いて、MALCE1遺伝子がコードする酵素の機能を解析したところ、本酵素はパルミトレイン酸(16 : ln-7)、リノール酸(18 : 2n-6)、あるいは、α-リノレン酸(18 : 3n-3)を効率よく鎖長延長することをみいだした。さらに、RNAi法によるgene silencingを行ったところ、パルミチン酸(16 : 0)が蓄積したことから、MALCE1はM.alpina IS-4内でパルミチン酸をステアリン酸(18 : 0)へ変換する役割を担っていることが明らかになった。 2. M. alpina IS-4とその誘導変異株を用いた分子育種により高度不飽和脂肪酸の生産を向上させた。すなわち、MALCEI遺伝子をM.alpina IS-4で過剰発現させたところ、生合成経路の最終脂肪酸であるアラキドン酸の生産量が約1.3倍となった。また、2つのGLELO(γ-リノレン酸(18 : 3n-6)をジホモ-γ-リノレン酸(20 : 3n-6)へ変換する鎖長延長酵素)遺伝子を含む発現ベクターを用いてGLELO遺伝子を過剰発現させたところアラキドン酸生産量が約1.5倍となった。変異株JT-180はΔ12脂肪酸不飽和化酵素活性が欠損しているが、一方で、Δ5とΔ6脂肪酸不飽和化酵素活性がM. alpina IS-4より高くなっている。JT-180でΔ12脂肪酸不飽和化酵素選伝子を発現させ、その活性を回復させることで、アラキドン酸の生産量を野生株よりも約1.8にすることができた。 以上の知見は分子育種株による高度不飽和脂肪酸の実用生産つながる革新的な成果である。
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