1. これまでにアラキドン酸(20:4n-6)生産性糸状菌Mortierella alpina 1S-4から3つの脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子を単離し、酵素の機能を解明してきた。本年度は、これまでに取得した鎖長延長酵素MALCE1とアミノ酸レベルでの相同性が50%を示すMALCE2をコードする遺伝子を単離し、その機能を解析した。酵母での発現実験を行ったところ、MALCE2はペンタデセン酸(15:1n-6)、パルミトレイン酸(16:1n-7)、オレイン酸(18:1n-9)、α-リノレン酸(18:3n-3)を鎖長延長することが明らかになった。このうち、特にパルミトオレイン酸を効率よく鎖長延長し、シスバクセン酸(18:1n-7)へと変換することがわかった。これまでに存在が確認されたこれら4つの鎖長延長酵素が菌体内でどのように機能発現しているか調べることで、高度不飽和脂肪酸生産制御に応用できると考えられる。 2. 糸状菌の形質転換では、相同組換えの頻度は一般的に非常に低い。M.alpina 1S-4においても外来遺伝子は非相同組換えによりゲノム上へ挿入される。そこで、非相同組換えに関わると考えられるKu80タンパク質に注目し、コードする遺伝子を相同組換えにより破壊することを試みた。70株程度の形質転換体のゲノムにおいて遺伝子挿入パターンを確認したところ、1株だけベクターが相同組換えにより目的位置に挿入されているKu80破壊株であることがわかった。さらに、非相同組換えの頻度が低くなっていると予想されるku80破壊株でΔ5脂肪酸不飽和化酵素遺伝子破壊を試みた。Δ5脂肪酸不飽和化酵素活性が低下することでアラキドン酸生産性が低くなった株が得られたので、ゲノム挿入パターンを確認したが予想されるパターンと完全に一致しなかった。今後は、非相同組換えの鍵酵素であるリガーゼ(Lig4)遺伝子の破壊株を用いて同様の実験を進める必要がある。
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