本年度は、食品中に幅広く含まれるポリフェノールであるケルセチンの抗動脈硬化作用機構に着目し、その生体内動態と作用機構との関係を明らかにすることを目的とした。まず、ケルセチンのヒト血中主要代謝物であるケルセチン3グルクロン酸抱合体(Q3GA)を認識する特異モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的検出法を確立し、ケルセチン代謝物の体内動態の解析が可能となった。本法をヒト大動脈組織切片へ応用することにより、Q3GAがヒト動脈硬化病巣において泡沫化マクロファージに特異的に存在する事実を見出した。これにより、これまで生体内において不明であった食品ポリフェノールの標的部位の一つが活性化マクロファージであることが示唆された。そこで、Q3GAによる抗動脈硬化作用を明らかにするため、培養マクロファージ細胞RAW264を用いた検討を試みたところ、Q3GAは動脈硬化病巣形成に必須な分子であるマクロファージスカベンジャー受容体の一つ(SR-A)の遺伝子発現を顕著に抑制することが明らかとなった。さらに、Q3GAによるこの抑制作用にはβグルクロニダーゼやメチル化酵素COMTなどマクロファージに特徴的な酵素活性によるQ3GAの活性化が必要であることが示された。よって、元来外来異物として解毒代謝・不活性化されると考えられてきたポリフェノールが生体内でその活性を発揮するための新たな分子機構が示唆された。今回検討を行ったSR-A以外にもQ3GAの標的遺伝子は存在すると考えられるため、次年度においてはマイクロアレイによる網羅解析を含めた検討が必要である。
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