研究概要 |
海岸クロマツ林における菌根菌群集の遷移を明らかにするため,樹齢の異なるクロマツ林分における菌根調査を行った.三重県津市栗真町屋町の海岸クロマツ林において,2008年7月に樹高の異なる3林分(5年生,8年生,11年生)を各3か所,合計9か所設置した.各林分から土壌(φ3cm×30cm)を5サンプルずつ採取した.クロマツ根端は顕微鏡観察を行い,菌根であったものは菌根の形態類別を行った.Cenococcum geophilumは顕微鏡観察により同定した.形態類別された菌根は核rDNAのITS領域のRFLP解析(Alu I,Hinf I)を行い,各RFLPタイプの代表サンプルのシークエンス解析を行った.各林分から採取したクロマツ根端は,578から1263根端であり,合計9312根端を検鏡した.そのうち,91.2%から100%の根端が菌根化していた.黒系菌根の菌鞘表面構造はnet synenchymaであり,そのすべてがC.geophilumであった.5年生林分では白系菌根が48%を占めていたが,8,11年生林分ではC.geophilumがそれぞれ72%,56%を占めていた.クロマツ菌根から菌由来のゲノム抽出に供試した354サンプルのうち,201サンプルがITS領域の単一バンドの増幅に成功し,119サンプルをRFLP解析用いた.48RFLPタイプに識別されもののうち,34RFLPタイプのから塩基配列が得られ,推定分類群はAtheliaceae,イボタケ科,Pyronemataceae,ショウロ属,ヌメリイグチ属,ベニタケ属などであった.5,8,11年生林分から16,23,26のRFLPタイプ検出され,クロマツの樹齢に伴い関与する種数は増加傾向にあった.5年生ではショウロ属,ヌメリイグチ属の菌根の出現が,11年生ではイボタケ科,Atheliaceaeの菌根の出現が顕著であり,各樹齢で優占する菌根菌種が異なる傾向を示した.以上より,海岸クロマツ林において共生する菌根菌はクロマツと密接に関わっており,それゆえ菌の遷移の可能性が示唆された.
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