猫伝染性腹膜炎(FIP)はコロナウイルスである猫電背陰性腹膜炎ウイルス(FIPV)に感染した猫に認められ、現在のところひとたび発症すれば高い致死率を示し、小動物臨床上、非常に大きな問題となっている疾患である。しかし有効な抗ウイルス薬が存在しないこともあり、決定的な治療法は確立されておらず、ステロイド剤の投与を中心とした対症療法が行われているに過ぎないのが現状である。そこでFIPVのレセプターが膜貫通型のエキソ型酵素であるアミノペプチターゼN(APN)/CD13であることに着目し、競合拮抗型のAPN阻害剤であるウベニメクスの抗ウイルス増殖抑制効果について検討した。その結果、ウベニメクスは細胞傷害性が無く、またII型FIPVに対しては著しい増殖抑制効果を示すことが示された。またウベニメクスを対象動物である猫に投与しても、in vitroでFIPV増殖抑制を示したウベニメクス濃度を維持可能であること、さらにFIPVの増殖抑制効果を期待できる投与量においてウベニメクスが安全であることが示された。さらにウベニメクスがII型FIPVにのみ効果を示す可能性も考えられたため、ウイルスの型別に関する疫学調査を行ったところ、これまでの報告と異なり、88%の猫がウイルスを保有しているという結果と共に、II型の感染率も高いことが明らかにされた。
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