複雑な複素環骨格の効率的な合成法の開発は重要な研究課題である。報告者は昨年に引き続き、触媒的連続多点制御反応を基盤とする高原子効率分子構築法の開発研究を実施し、以下の成果を得た。 (1)アレン系化合物をアリルジカチオン等価体として用いた連続環化反応の開発 報告者は、ブロモアレンやプロパルギルブロミドがアリルジカチオン等価体として機能する反応性を利用して、両末端に求核部位を有するプロパルギルブロミドやアルキニルアジリジンを用いた縮環型および連結型複素環構築法の開発に成功した。また、これらの研究成果を基盤として、Jaspine Bの短工程合成並びに多様性指向型合成経路の確立に成功した。 (2)銅触媒を用いた多成分カップリング―環化反応を基盤とした複素環合成反応の開発 本研究において開発した多成分型環化反応を基盤として、ジアミンを用いた四成分型高度縮環型イソキノリンの合成に成功した。また、三成分反応がアミノメチルインデンやベンゾチアジン誘導体の合成にも応用可能であることを明らかにした。 (3)銅触媒を用いたC-H結合の切断を伴う連続反応による複素環合成反応の開発 C-H結合を直接目的の結合に変換する反応を連続反応に組み込むことができれば、原子効率の高い反応系の構築が可能となる。報告者らは、銅触媒を用いたアミジンを配位基とするオルト位酸化反応による縮環型複素環骨格の構築と、銅触媒存在下におけるアミジンのアルキニル化を契機とするキナゾリン骨格の一挙構築に成功した。 (4)金触媒を用いたアニリン誘導体の分子内連続環化反応による芳香環縮環型カルバゾール誘導体の合成 反応基質のすべての原子を生成物に転写する反応を連続反応に利用することは、目的の化合物を高い原子効率で得る上で極めて有用である。報告者は、金触媒によるアルキニルアニリンの環化反応が連続的に進行することを見出し、「原子完全利用型」縮環型カルバゾール合成法の開発に成功した。
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