アルツハイマー病(AD)研究を効率的に進めるために最も重要なツールは、ADモデル動物である。しかし、現在最も広く使用されているADモデルマウスは、AD病理の主因の一つアミロイドβペプチド(Aβ)の前駆体蛋白(APP)のトランスジェニック(Tg)マウスである。APP-Tgマウスでは、AD病理を忠実に再現できておらず、それがAD研究において臨床と基礎を結ぶトランスレーショナルリサーチとして完全に機能できていない理由の一つとなっている。そこで我々は、これまでに報告されたADモデルマウスの問題点を精査し、アミロイド仮説に則した2種類のノックインマウス(APP^<sw+Bey/h>-KIマウスとプレセニリン(PS)-1-R278I-KIマウス)の作製を行った。APP^<sw+Bey/h>-KIマウスに関しては、さらに変異の導入方法を2種類(CDNA型とgenomic型)で行っており、最終的には、非常に困難であったgenomic型APPP^<sw+Bey/h>-KIマウスの作製に成功し、現在詳細な解析を進めている。 一方でPSI-R278I-KIマウスに関しては、AD脳で検出されているにも関わらずこれまでほとんど着目されてこなかった「Aβ43」の産生を促す事が明らかとなった。Aβ43は、これまでAPP-Tgマウスの研究で着目されていたAβ40やAβ42よりも遙かに凝集性が高く、また、加齢依存的に脳内で産生されることも明らかとなり、しかもそれがアミロイド斑形成に先行して起こることから、AD病理形成のためのinitiation factorである可能性が示唆された。今後、Aβ43がAD早期診断のためのバイオマーカー候補にもなりえることから、さらなる解析が望まれている。本研究課題を全うすることができたため、本研究結果を投稿し、現在Nature Neuroscience誌のrevision中である。
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