研究概要 |
1) 小腸ペプチドランスポータの示す日周リズムの転写制御機構の解明 小腸に発現するペプチドトランスポータ(PEPT1)は、経口用β-ラクタム抗生物質、ACE阻害剤、抗ウイルス剤などのペプチド類似薬物の消化管吸収を媒介している。これまでラットを用いた検討により、PEPT1は日周リズムを示し、これら薬物の消化管吸収に影響を与えるが、その分子機序については不明であった。そこで、PEPT1日周リズム形成機構を調べるため、その転写制御に関与する転写因子(Sp1,Cdx2,PPARα)、並びに生体時計の本体である時計遺伝子に着目し検討を加えた。その結果、小腸PEPT1の日周リズム形成には、時計遺伝子の一種である転写因子DBPが重要な役割を果たしていることが明らかになった。これら知見は近年盛んな生体リズム研究/生活習慣病の治療/薬物の消化管吸収機構をリンクさせるものであり、新しい薬物療法の開発に繋がることが予想される。 2) H^+/有機カチオンアンチポータ(MATE1及びMATE2-K)の遺伝子多型解析 我々が2006年にクローニングを報告したMATEは、腎臓の近位尿細管上皮細胞の刷子縁膜に局在し、糖尿病治療薬メトホルミン等のカチオン性薬物の腎排泄を担っている。そこで、メトホルミンの臨床体内動態解析を実施するにあたり、MATEの基礎的遺伝子情報の収集を試みた。その結果、MATE1ではアミノ酸変異を伴う遺伝子多型が5つ、またMATE2-Kでは2つ認められた。いずれも新規の遺伝子多型であったが、ホモ変異の患者は認められなかった。さらに、これら遺伝子多型の輸送活性に及ぼす影響について検討したところ、いずれも輸送活性の減少や消失が認められ、特にMATE1 G64DやMATE2-K G211Vでは完全に輸送活性が消失した。これらの知見は、メトホルミン体内動態の個人差を解明する上で、有用な基礎的情報になりうると考えられる。
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