頭部外傷は神経細胞変化性や細胞死を引き起こし、神経機能低下及び脳機構の破綻を招来する。従って、頭部外傷により引き起こされる受傷応答メカニズムの特徴をプロファイルする事は重要である。本研究では脳損傷モデル動物を用いて頭部外傷によって変動する遺伝子を精査すると共に、組織学検討を行い脳の病態について検討する。 頭部外傷によって変動するアポトーシス関連遺伝子の変動をDNAマイクロアレイ法により検討した。その結果、受傷後3時間の損傷脳においてインターロキン1や腫瘍壊死因子などの炎症系のサイトカインが急激に上昇していた。また、受傷後6、12時間後の損傷脳において多数のアポトーシス関連遺伝子の発現が変動していた。さらに、受傷後24時間後の損傷脳ではそれら遺伝子の発現は収束していた。これらの結果は、平成19度に行ったTUNEL(TdT-mediated dUDP nick end labeling)染色を用いた組織学的検討や神経細胞やマクロファージの免疫組織化学の結果を反映していた。即ち、頭部外傷により引き起こされるアポトーシスは受傷後早期に誘導され、受傷経過時間に伴って一過性の増大を示している事が分かった。 一方、DNAマイクロアレイ法を用いた分子生物学的検討では、アポトーシスにおいて中軸的な役割を担っているエフェクターカスパーゼの一つであるカスパーゼ3の遺伝子発は変動していなかった。従って、今後、カスパーゼ3の動態について免疫組織化学やウエスタンブロティング法を用いてタンパクレベルで検討する必要がある。
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