頭部外傷は神経細胞変性や細胞死を引き起こし、神経機能低下および脳機構の破綻を招来する。従って、頭部外傷によって引き起こされる受傷応答メカニズムの特徴をプロファイルする事は重要である。本研究では脳損傷モデル動物を用いて頭部外傷によって変動する遺伝子を精査すると共に、組織学検討を行い脳の病態について検討した。 頭部外傷によって変動するアポトーシス関連遺伝子と炎症関連遺伝子の変動をDNAマイクロアレイ法により比較検討した。その結果、頭部外傷後、アポトーシス関連遺伝子と炎症関連遺伝子の発現は協調的に変動する事が分かった。即ち、受傷後6、12時間後の損傷脳において多数のアポトーシス関連遺伝子及び炎症関連遺伝子の発現が変動していた。また、受傷後48時間後の損傷脳においてそれら遺伝子の発現は収束していた。さらに、受傷後3時間の損傷脳においてインターロキン1や腫瘍壊死因子などの炎症系のサイトカインが急激に上昇していた。一方、アポトーシスにおいて中軸的な役割を担っているエフェクターカスパーゼの一つであるカスパーゼ3の遺伝子発現は変動していなかった。しかし、免疫組織化学を用いた検討では受傷後6時間の損傷脳において著しいカスパーゼ3の活性化を認め、カスパーゼ3の動態はTUNEL染色を用いた組織学的検討や神経細胞およびマクロファージの免疫組織化学の結果を反映していた。 以上の結果から、頭部外傷により引き起こされるアポトーシスは炎症系のサイトカインによって受傷後早期に誘導され、受傷経過時間に伴って一過性の増大を示している事が示唆された。
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