臨床研究では、多施設臨床試験グループを形成して、以下の三つの多施設臨床試験で症例登録を行っている。1)未治療進行非小細胞肺癌患者におけるパクリタキセルとカルボプラチンに対するニトログリセリン(GTN)併用/非併用療法に関す多施設無作為化第II相比較臨床試験、2)3rdライン既治療非小細胞肺癌症例に対する塩酸アムルビシン・GTN併用療法の第II相単群臨床試験、3)高齢者未治療病期第III B/IV期非小細胞肺癌症例に対するGTN・ドセタキセルの単群第II相試験。これらの臨床試験では、GTNの抗癌剤増強剤としての保険適応追加を目指す第III相試験(医師主導治験)の予備試験となる。基礎研究においては、GTNは、抗癌剤の腫瘍組織への薬物分配を増加するというよりは、腫瘍内微小循環を増強することを介して、腫瘍組織におけるP糖蛋白や血管内皮成長因子(VEGF)などの抗がん薬治療耐性化蛋白質発現を抑制することと、リン酸化Aktやリン酸化CREBなどの癌細胞の生存シグナルを抑制し、CD95などの細胞死シグナルを増強することにより、アポトーシスを促して、癌細胞の抗癌剤への感受性を増強している可能性が示唆された。現時点では、NTG併用化学療法は探索的臨床研究の域を出ておらず、全症例においてGTNが抗癌剤の抗腫瘍効果を増強するわけではない。同一腫瘍組織型であっても、腫瘍組織における腫瘍血管の分布は一様ではなく、抗癌剤耐性化は個人差があると考えられ、NTG併用化学療法の効果も個人差があると考えられる。したがって、抗癌剤投与前の3日間の短期間NTG試験投与により血漿VEGF濃度が大きく低下する症例においては、化学療法にNTGを併用する意義が存在する可能性があり、個別化医療として各症例に相応しい治療を行うべきと考えている。安価で安全なGTN併用がん化学療法の普及により経済的医療崩壊を抑制できることを切に願っている。
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