本研究はβ^-線(飛程:数mm)よりも飛程の短いオージェ電子と分子標的の概念を組み合わせることにより、標的分子のみを破壊する内用放射線療法を確立することを目的とする。具体的には、医療用超小型サイクロトロンを用いて新規オージェ電子放出核種、Br-77を製造し、このBr-77をDNAあるいは癌特異的タンパク質を標的とするそれぞれの治療分子に導入し、その治療効果を細胞レベル、動物レベルで検討することにより、新しい癌の内用放射線療を基礎から臨床応用まで総合的に研究する。昨年度までに医療用小型サイクロトロンを用いたBr-77の製造方法を確立し、Br-77標識チミジン誘導体の合成方法を確立し、そのBr-77標識チミジン誘導体が増殖能の高い腫瘍に集積することを明らかにした。 本年度は、Br-77標識チミジン誘導体の内照射効果を検討した。その結果、Br-77標識チミジン誘導体を投与した細胞において、細胞増殖が低下していることが明らかとなった。さらにこの増殖能の低下は、増殖能低下を誘導している放射能量のBr-77単独あるいは非放射性臭素誘導体では認められなかったために、Br-77標識チミジン誘導体がDNAに取り込まれ、そこでオージェ電子を放出するために誘導されていることが示唆された。さらに増殖能が低下している細胞群においては、アポトーシスが誘導され、細胞の生存率が低下していることも示唆された。 以上の結果より、Br-77標識チミジン誘導体が増殖能の高い腫瘍を大将とする内照射プローブとしての、基本的な性質を有していることが示された。
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