本研究はβ-線(飛程:数mm)よりも飛程の短いオージェ電子(飛程:1μm以下)と分子標的の概念を組み合わせることにより、標的分子のみを破壊する内用放射線療法を確立することを目的とする。具体的には以下に示す項目を検討することにより、本研究目的を達成することを計画した。 (1) 固体ターゲットを用いた医療用超小型サイクロトロンによるBr-77の製造法の確立オージェ電子放出ハロゲンの中で最終的に臨床応用可能な核種はBr-77であると考えられる。このBr-77を超小型サイクロトロンで製造することができれば、その臨床的利用価値は非常に高いと考えられる。そこで固体ターゲットを用いて超小型サイクロトロンによるBr-77の製造法を確立する。 (2) DNAに作用する放射性ハロゲン標識分子の開発 オージェ電子がDNAと相互作用して、DNAに傷害を与えることは報告されている。そこで、DNAに組み込まれるBr-77標識分子を開発することにより、増殖能の高い癌へ多くに取り込まれ、癌のDNAを傷害することにより治療効果を発揮すると考えられる。具体的には、Br-77標識チミジン誘導体を設計し、Br-77の標識法の確立、細胞を用いたinvitroでの治療効果の検討、担癌動物を用いた治療効果の検討を行う。 (3) 癌特異的なタンパク質に作用する放射性ハロゲン標識分子の開発 オージェ電子のタンパク質への傷害に関する報告はない。しかし、DNAへの作用機序を考慮すればタンパク質への傷害作用を有している可能性がある。オージェ電子がタンパク質に傷害を与えることが明らかとなれば、細胞の癌化や転移のトリガーとなっているタンパク質を特異的に破壊することが可能となる。項目(2)と同様にBr-77で標識されたタンパク質標的型薬剤の評価を行う。
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