研究概要 |
本研究では脊髄後角におけるSema3A単独での疼痛抑制作用機序を明らかにするため、平成19年度はプロテオミクス解析の手法を用いたタンパク発現のプロファイリング解析、およびSema3Aによる神経因性疼痛軽減効果の長期的な効果を行動学的に検討した。 まず、予備的な実験として、あらかじめくも膜下カテーテルを留置したラットを用いて両側の坐骨神経に対する慢性絞扼神経障害(CCI)モデルを作成し、障害のない群、CCI単独の群、障害作成時よりくも膜下カテーテルからSema3Aおよび不活性化Sema3A(2000u)を1週間にわたって投与した群各3匹ずつの脊髄(L5に相当する腰膨大部を摘出、可溶化した後に蛍光色素を用いて標識後、タンパク2次元電気泳動法を用いてCCI単独群とCCI+不活性化Sema3A投与群で同様な発現挙動を示し、CCI+Sema3A群で逆の発現挙動を示すタンパクスポットを同定、質量分析を行った。このような挙動を示す2次元泳動上のスポットは35個同定され、これらのうち質量分析により3つのタンパク(Gamma-enolase,Superoxide dismutase[Cu-Zn],Cytochrome b)が同定された。このうち、Gamma-enolase、Superoxide dismutase[Cu-Zn]はSema3A投与により脊髄での発現はそれぞれ65.3%、65.8%に減少し、Cytochrome bはSema3A投与により7.28倍に増加した。いずれのタンパクも脊髄および後根神経節での発現が報告されており、細胞死との関連が指摘されている。今後は脊髄後角に限ったサンプルを用いてタンパクのプロファイリングを行うと同時に、今回同定されたタンパクの脊髄および後根神経節での分布を免疫組織で確認し、計画通りgenetic ablationによる疼痛への効果を検討する予定である。 また、CCIモデル動物に対するSema3Aの疼痛軽減効果は、統計学的検討はこれからであるが投与1週間で消失する傾向が見られた。今後はSema3Aの追加投与の効果、Sema3Aの疼痛効果が消失した後の脊髄を用いた免疫組織等を行う予定である。さらに平成19年度は多点皿電極を用いた脊髄での電気生理学的研究を行う目的でMED systemを購入し、設置および測定条件の最適化を行った。
|