本研究では脊髄後角におけるSema3A単独での疼痛抑制作用機序を明らかにするため、平成19年度はプロテオミクス解析の手法を用いたタンパク発現のプロファイリング解析、およびSema3Aによる神経因性疼痛軽減効果の長期的な効果を行動学的に検討した。 まずSema3Aによる神経因性疼痛軽減効果の長期効果であるが、CCIと同時にSema3Aを2000単位/7日間で持続くも膜下投与した群では術後1週間の時点での機械的刺激に対する傷害側の逃避潜時は健側と比較して93.3%と保たれていたが、2週間目には69.6%とSema3Aを投与しない群と有意差がなくなっていた。その傾向は術後4週目まで継続した。また、CCI作成後2週間目で同様にSema3Aを投与した群では疼痛軽減効果はまったく見られなかった。以上の結果から、当初予測していたようにSema3Aによる神経因性疼痛軽減効果は神経因性疼痛の形成期に特異的に作用し、長期的には効果がないことが明らかになった。 プロテオミクス解析については本学国際総合科学研究科平野教授の協力を得て、iTRAQ法という最新の技法を用いてSema3Aを投与したラットの脊髄でのみ発現量が増加し、CCIやCCI+不活性化Sema3A投与群では発現が変化していないタンパクのうち、リン酸化修飾を受けたもののみを抽出、タンパク質量解析法で解析した。解析の結果、ミエリン関連タンパクやニューロフィラメントといった有髄線維に多く発現していると考えられるタンパクがリン酸化されていることがわかった。この結果は免疫組織学的検討でSema3A投与によっても有髄繊維の発芽(sprouting)が生じないという今のところわかっている結果とはマッチしない。タンパク質の解析は今後も継続して行っていくことになっている。
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