本研究の目的は老化や事故などにより機能しなくなった尿道括約筋に代わって尿道の開閉を行う人工弁を開発することである。女性に多いのは尿失禁であり、簡便な装置と短時間での手術が望まれている。そこで、本研究では始めに女性用の人工弁の開発を行った。現在、尿失禁防止の手術としては尿道に適度の力を加えて尿道を圧迫し、尿漏れを防ぐという「スリング手術」というものがある。この方法は尿漏れを防ぐことはできるが、括約筋の役割を果たすことができなかった。そこで、本研究では磁石を用いて尿道に加える圧力を体外から制御できる人工弁の開発を行った。通常は磁石を鉄板に引き付けておき磁石に取り付けた紐で尿道を圧迫して、尿漏れしないようにする。排尿時には体の外から磁石を近づけると入工弁の磁石が反発して移動し、その分尿道を圧迫していた紐が緩み、尿道が緩和され尿が出るという仕組みである。この仕組みであれば、これまでのスリング手術の利点を活かした上で、更に重度の排尿障害の場合にも対応できる。このようなスリング式の人工弁の試作機を製作し、兎による動物実験を行った結果、所望の動作をし、膀胱に圧力を加えても尿が漏れないことを確認した。長期的な装着における耐久性を調べるため・本研究費で製作した評価装置を用いて、約10万回の動作を水中で繰り返した。その結果、動作を繰り返すうちに人工弁に水が浸入し弁の開閉に支障をきたすことが分かった。そこで尿道を周囲から圧迫する新しい方式の人工弁を考案した。この方式であれば、これまでのスリング式の人工弁では不可能であった男性用の人工括約筋として使用することが可能となった。この周囲圧迫式の人工弁の特許を出願した・この方式の人工弁を試作し、尿道を周囲から圧迫するという所望の動作をすることは確認できたが、尿道を圧迫して尿を止めておくための圧力を得るには至っていない。今後、更なる改良が必要である。
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