再生医学研究の発展により、歯関連組織(歯胚、歯髄等)由来細胞から、象牙質、骨、脂肪組織、神経組織への分化誘導が可能となってきた。また小児歯科領域においては、その幹細胞の供給組織として、自然脱落する乳歯に着目し、交換期乳歯の歯髄細胞を用いて、同様に神経組織や骨組織への誘導が可能となってきた。このように単一組織への分化誘導法はある程度確立されてきたが、その一方でエナメル質を形成するエナメル芽細胞への分化誘導法や、その前駆細胞の調整法、さらには臼歯のように咬頭を有する機能的な歯を再生するには至っていない。その主な原因として、歯の形態形成に関わる分子メカニズムがいまだ明らかとなっていないことが挙げられる。 我々は、歯の形態形成に関わる分子として、細胞間結合に関わるGja1分子と、外胚葉異形成症の原因遺伝子の下流分子であるNF-kBシグナルについて着目した。そこで、これら分子を欠損するマウスを解析した結果、Gja1欠損マウスではエナメル芽細胞の分化が十分行われないために、エナメル質形成不全症を呈すること、さらには眼歯指異形成症と類似の歯の表現系を示すことを明らかにした。具体的には、TGF-β1などを介したエナメルマトリックスの発現誘導の過程において、Gja1の有無により、TGF-β1刺激の下流分子であるsmad2/3のリン酸化には全く影響を及ぼさないが、ERKのリン酸化が制御されていることが分かった。また、NF-kBシグナルのうちp50とNIKを介する経路が、歯の横幅の決定に重要であることを明らかにした。
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