今年度は、高効率なXML型検査アルゴリズムのために2つの成果を出した。1つは、前年度に引き続き、マクロツリートランスデューサの拡張である、マルチリターン・ツリートランスデューサに関する理論的な研究を行った。前年度では、マルチリターンを導入することによって、マクロツリートランスデューサよりも真に表現力を高めることができることを示したが、本年度はそれに加えて、コンポジション、すなわち、2つのXML変換の直列計算が、一つのXML変換で表現できるか、という問題に取り組んだ。その結果、マルチリターン・ツリートランスデューサに、決定性トップダウンツリートランスデューサというクラスのXML変換を、前側に連結した場合も、後ろ側に連結した場合も、ひとつのマルチリターン・ツリートランスデューサで表現できることを証明できた。マクロツリートランスデューサでは、コンポジションに関して良い性質が成り立たないことが知られているのに対し、本研究の結果はマルチリターンによって拡張することによって、良い性質が得られることを示したという意味で、目覚ましい。2つめの研究は、XML変換に多相型を導入するというもので、型の一部をパラメタ化することによってプログラムの汎用性を高めることができる。多相型は関数型言語の研究で標準的に使われる技術であるが、XML型検査においては、型に正規表現が入るために、新しい理論が必要である。本研究では、マークつきツリーオートマトンという概念を導入して、XMLのための多相型を実現し、多相型を含んだ型検査アルゴリズムを構築した。なお、この研究成果の概要は先年に会議発表したものであるが、今年度は数学的な証明をすべて完成させ、論文誌で発表した。
|