研究概要 |
これまでの考察において, 完備半順序集合の層の概念を導入し, 「これが十分な大域元を持たないカルテシアン閉圏の構造を与えていること」と, 「その間に定義される任意の連続関手に対して不動点となる層を構成できること」を示した. これらの性質は「プログラムの内包構造を捉えることのできる数理モデルの構築」を保証していて, 集合と関数の概念に基づく従来の枠組では実現できない著しい特徴を与えている. 従来の研究の中で「プログラム内包構造の数学的特徴付け」を可能とするほぼ唯一のアプローチとして, 1980年代から行われた高階遂次性に基づくモデル (遂次構造と遂次アルゴリズムから構成される圏などが知られている) の研究がある. そこで, 今年度の考察では, 主にこうした構造の比較を行い, 「既知の枠組が層の概念を特殊化することによって得られないか? 」更に「層を使って説明できない場合は全てを統一的に説明できるより抽象的な概念が存在しないか? 」といった観点から考察を行った. その結果として, 「遂次構造 (圏の対象に相当) には, プログラムの計算過程を断面と見なすことによって, 自然な形で前層の構造が含まれている」ことが分かった. その一方で, 遂次アルゴリズムの概念に対しては, 自然変換 (層の構成する圏の射に相当) によって記述されることが期待されるが, これについての可否は現時点では不明であり, 来年度以降の課題となる.
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