一方向通貨交換問題は、オンライン最適化の中でもとりわけ経済や金融に関係が深く実用的な意義に富んだ話題である。初期財産1ドルを持ったトレーダーがドルから円への通貨交換を行う。トレーダーは各時点でいくらでも細かい単位のドルを交換可能であるが、円を売ってドルを買い戻すことはできない。ある時点で交換レートの暴落が起き、その際に所持しているドルは全てある最低レートで円に交換しなければならない。結果としてトレーダーが得る円の量を最大化するのが目的である。既存研究として、いつ暴落が起きたとしても一定の効用を保証する通貨交換アルゴリズムが知られていた。ここでトレーダーの効用関数は最悪競合比というものであった。他のオンライン最適化問題において広く使われているものであり、これを用いることについて特に異論は無かった。ここまでの話はいわゆる「最悪の場合の評価」であり、それでは「平均の場合の評価」はどうなのかという疑問が湧いてくる。平均の場合の自然なモデルとして、暴落までの交換レートの最大値が確率分布に従うものとした。さて何らかの効用関数を設定しなければならないのだが、「最悪の場合の評価」と異なり、この場合での効用関数の選択はそれほど自明ではない。本研究では考えうる全ての効用関数の下で完全に解析を行った。結果として、考察した効用関数はどれも妥当性があるにもかかわらず、効用関数が異なれば最適な通貨交換アルゴリズムも全く異なったものになることを証明した。この結果はオンライン最適化全般に対して、「最悪の場合の評価」に議論の余地のない効用関数の選択が、「平均の場合の評価」には熟考が必要であること、即ち、安易な態度は意図せぬ結果を導き危険であるという警告を発している。
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