研究概要 |
量子情報処理は将来の革新的情報処理技術として世界的に注目を集めている。現代のネットワーク社会を考えれば,将来,通信ネットワークを介した量子情報処理,すなわち量子分散処理は必須の技術となりうる。平成19年度は,大きく分けて,量子分散処理に関する二つの成果が得られた。 1.多数のノードから構成されるネットワーク上の2つのノードに入力が分散して与えられている時に,その入力に依存する関数を計算するのに必要な通信量の下界を検討した。その結果,十分小さな誤り率を許す場合,下界は,上記2つのノードが直結しているときに必要な通信量および,ネットワークの形状を規定する数種のパラメータで特徴づけられることを明らかにした。この定理は,2つのノードに入力が与えられることを仮定しているが,さらに多くのノードに入力が分散して与えられる,より一般的な設定にも適用可能な場合がある。そのような場合の典型例として,リング型ネットワークを構成する各ノードの優先順位に重複がないか検査する問題をとりあげ,定理を適用したところ,ほとんど最適な下界を与えることがわかった。この定理より与えられる下界は,分散環境において量子プロトコルを設計する際に,通信量最適化の指針を与えるものである。 2.量子状態の性質を用いることにより,古典情報を表現する量子状態に対して過去に情報抽出を行ったことを検出する技術に関するものである。これは,量子分散処理を行う際に,その処理が正しく行われたことを保証するために重要である。本研究では,元の古典情報がある種の確率分布をもつとき,過去に行った情報抽出の検出率と抽出された情報量とのトレードオフを解析的に評価した。
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