研究概要 |
本研究の目的は,音源位置から耳元までの伝達特性(頭部伝達関数,Head-Related Transfer Function: HRTF)を信号処理的に再現し,任意の位置にある音を模擬するシステム,聴覚ディスプレイシステム(Virtual Auditory Display: VAD)の高性能化である.[頭部運動とVADシステムの遅延検知限の関連性の解明]:これまでの実験結果から,聴取者の頭部運動に追従可能なVADにおいて,必然的に発生するシステム遅延の平均的な検知限はおよそ60msであることがわかった.しかしながら,大きな個人差(標準偏差26ms)が存在した.この原因に実験中の頭部運動差が大きく関連していると推察し,頭部運動と聴取者ごとの検知限の関連性を解明するため,次の解析を行った.まず,システム遅延の検知限測定実験中の聴取者の頭部運動に対して,頭部運動量,速度,運動範囲,運動時間などを抽出した.そして,抽出した頭部運動パラメタと検知限との重相関解析を行った.この結果,システム遅延の検知限は聴取者の頭部運動を行う時間と相関が高いことがわかった.[サブリミナルムービング音像提示法の検討]:人が音を聴取する場合,音像の相対位置が動的変化することで定位精度が向上することが知られている.そこで,本研究では提示位置で音像を意図的に微小に動かすこと(サブリミナルムービング音像提示法)が,音像定位精度の向上に寄与するかについて実験により検討を行った.まず,音像提示中の聴取者の微小な頭部運動を位置センサで取り込み解析した.次に,この微小頭部運動をモデル化した動きを音像に与え,定位実験を行った.実験の結果,VADシステムを用いた単一音源提示条件下では,サブリミナルムービング音像提示法は通常の音像提示法に対して有意に優れた定位結果を示さなかった.
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