本研究の目的は、多チャンネル・サラウンド・コンテンツをヘッドホンにより再生するための音楽再生環境の開発を行うことである。この研究の背景としては、若者を中心とする主に屋外でのヘッドホン聴取人口の増加、そしてそれに呼応するように増加する家庭でのサラウンドシステムという、二極化しつつある音楽再生環境がある。多チャンネルの家庭用機器向けコンテンツから、ポータブル機器のヘッドホン再生用コンテンツが自動的に生成できれば、音楽制作者たちの負担は著しく軽減される。 本研究では、左右2チャンネルしかないヘッドホン再生と、多数のスピーカーを配置できる室内再生との差異を考え、特に壁面反射による音の拡散に着目して新システムの研究開発を行うことを目的とした。 平成20年度には、音楽をヘッドホン聴取する際に問題となるクロストークのない状況がどの程度音楽聴取に影響を与えるのかを調べるための実験を行った。これは、ヘッドホンを用いた自然な音楽再生のためには不可欠な基礎的研究である。クロストークを人工的に付加することで、ヘッドホン再生においてもスピーカー再生と似た自然な音場が得られると言われているが、筆者による研究ではクロストーク・シミュレーションのみでは音像が狭くなりすぎ、かえって不自然な印象になってしまうことが分かった。そのため、狭くなった音像を広げるために「非相関強調」という手法を提案し、主観評価実験を行ったところ、クロストーク・シミュレーションによる音像の狭さを解決することができた。
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